プロジェクトストーリーVol.1 日本からアジアへ

※掲載内容は2013年12月時点の情報に基づきます。

キユーピーグループは、前中期の「新たな展開への挑戦」のひとつとして「東アジアへの拡大」を掲げていました。その実現のために、アジア各国の食文化や市場特性に合わせた商品開発が急務となっていました。この課題に対して、新たな技術導入による中国市場向けマヨネーズの開発プロジェクトが動き出しました。

現地開発チームからの要請

中国・杭州に拠点を置く現地の開発チームから、中国市場向けマヨネーズの開発についての要請があったのは、2009年のことでした。この要請を受けて動き出したのが、当時、国内の業務用マヨネーズを開発するチームに在籍していた西功司でした。
キユーピーグループは、1990年代に中国に現地法人を設立、「丘比」(キユーピーブランド)の商品の製造・販売を行ってきました。そのなかで杭州の開発チームは、各商品を現地に合わせて調整し、生産体制を整え、市場に提供していくという役割を担ったのです。

しかし経済成長の著しい中国市場に注目する多国籍企業の参入や食品に対する要求レベルの高度化に伴い、より市場競争力の高い商品をつくり出す必要がありました。
杭州開発チームからの要望は、明確なものでした。嗜好性の観点から、現地では嫌われる傾向にある「酸味」を抑えて、より多くの人々に受け入れられる風味を実現することでした。

食に関する法律、原材料のコストなど、多くの面で日本とは異なる環境でこの要望を実現するためには、これまでにない革新的な技術をつくりだし導入する必要があると、西は感じていました。 西は、まず現状の市場分析から着手していきました。分析研究室や微生物研究室の協力により得られた分析結果をもとに、キユーピーグループとしてめざすべき商品像、その実現のためにキーとなる技術について、多くの研究員を巻き込みながら議論を重ねていきました。

試作・検証のスパイラル

マヨネーズの酸味を抑えるために、どのようなリスクやデメリットが生じるのかを抽出し、それらの対応のためにどのようなアプローチをとるべきかの検討を重ねてきました。特に課題となったのは、現地に受け入れられる風味の実現と、商品の安定性を両立させることでした。これをどんな技術で補えばいいのか検討する必要がありました。可能性のある手段を絞り込み、これらを一つひとつ検証しながら、最も効率よく進化を期待できる手段を探りあてるのが、研究開発段階における主要テーマでした。

試作、試食、安定性試験の実施、このスパイラルを数十回と繰り返しながら、最も効果的な技術を探し続ける日々が続いていました。2010年に入る頃には、プロジェクトによる最初の商品につながる技術に到達することになります。酸味を抑えながらも、商品を安定化させる方法が見つかったのです。

マヨネーズは、油と卵と酢を主要な原材料としてつくられています。この原材料のバランスの調整と、安定性を高める技術の発見により、めざす商品を実現させる道がひらけました。現在でもなお、それに続く新たなアプローチの研究が行われていますが、この時点で「中国市場でも戦っていける。そんな確かな手応えを感じることができた」と、プロジェクトの一員として開発を支えてきた小口かおりは、当時の想いを話してくれました。

国境を超えた信頼関係

日本で研鑽された技術が、現地中国の現場で試されることになりました。研究開発段階から中国現地での生産に標準を合わせてきたので、法規制や原材料の調達面での問題はありませんでした。
しかし、新たな技術を導入したために、生産ラインには新しく工程が加えられ、ルールも適切に変更して運用する必要がありました。
「測定器の使用やラインの構成について、徹底した指導を行うとともに、各工程が、どうして必要なのかを真に理解してもらうことが、何よりも重要と考えていました」と西は当時を振り返ります。

現地への度重なる出張のたびに、新たな行程やルールの必要性について繰り返します。新しい技術の開発ばかりでなく、その製造や販売のサポートまでを責任を持って担当するという姿勢が、研究員には求められます。
その情熱は、文化や国民性の違いを越えて、確実に伝えわっていくものだという手応えを感じ取ることができるのも、開発という仕事の醍醐味なのかもしれません。「この仕事を通じて、現地のメンバーとも交流を深め、信頼関係を築くことができたのは、私にとって大きな財産となっています」と西は語っています。
ここで得た確かな手応えと研究員それぞれが培った自信は、今回開発された技術を他の地域の商品へと展開していく時にも、大きな力となることでしょう。

日本の食卓から世界の食卓へ

研究開発の段階から、試作品を現地に持ち込み、何度も試食会を開催してきたため、現地スタッフの新商品への期待度は確実に高まっていました。
実際は、予想を超える成果を上げることができました。半年後、何気なく入った中華レストランで、自分の開発した商品が使われている場面に遭遇した西は、「現地の市場の反応を直に感じることができるのは、研究員冥利に尽きる」と語っています。

さらに販売サポートという面で、研究員たちが果たす重要な役割のひとつが、現地における勉強会の開催です。 「研究開発の段階でも、それぞれの商品がどのようなシーンで、どのように利用されるのかを想定しながら、ものづくりを行っています。現地のお客様に向けて、提案を行う際にポイントとなる商品特性を理解していただき、よりよい提案をするための方向性を示していくことが、研究員には求められているのです」と小口は言っています。

キユーピーグループの研究員たちは、自分たちが開発した商品が、どのように市場に展開し、どのようにマーケットに受け入れられるのかというシナリオを描き、それを織り込みながら、商品開発にあたっていきます。
日本の食卓から、世界の食卓へ。
研究員たちの視線の先には、発展著しいアジアの豊かな食卓があるのです。

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