しっかり噛めていますか?

一人何役? 唾液の働き

第7回では「しっかり噛む」ことの大切さを解説しました。しっかり噛むことで食べやすくなるのは、すりつぶされて食べ物が「やわらかくなる」からです。ここで重要な役割をするのが「唾液」です。
普段は無意識に飲み込んでいますが、唾液は1日トータルでは0.5~1.5ℓ分泌されています。口の中に常に2~3ml(計量スプーン小さじ1/2程度)存在しているといわれ、高齢になると分泌量が減少しがちですが、高齢者こそ唾液で口を潤しておくことが大切なのです。さて、唾液にはどんな働きがあるのでしょうか?

食べやすくするためには唾液が必要

噛むことは口の周りの筋肉を使う運動です。噛むことで耳の下、顎の下、舌の下にある唾液腺が刺激され、唾液の分泌量が増えます。しかし、高齢になると水分を控えがちになったり、薬を多く服用した副作用から、唾液の分泌量が減るといわれています。
パンやサツマイモなど、パサつくものが食べにくいと感じることはありませんか。
食べ物を噛むときに口の中の唾液が少ないと、食べ物がまとまりにくく、噛み砕いたものを飲み込みやすい状態にまとめることができません。食べ物の味わいにも影響します。まとまっていないパサパサしたものは食べづらく、誤って気管に入ってしまうと窒息の原因になることもあります。

唾液の働き

唾液には、食べやすくするだけでなく、口を通して外部から入ってくる細菌などから体を守るための、免疫機能という重要な働きもあります。

<唾液の働き>

  • 消化を助ける

    唾液に含まれる酵素(アミラーゼ)が、食べ物に含まれるでんぷんを分解し、消化されやすい状態にします。

  • 口の清潔を保つ

    口の中の食べカスを洗い流し、口の中をきれいにして虫歯や口臭を防ぎます。

  • 味を感じやすくする

    舌にある味蕾(みらい)に唾液が味のもととなる物質を運ぶことで、食べ物の味を感じることができます。

  • 食べ物を飲み込みやすくする

    かたくパサパサしたものでも、唾液とまざることで、まとまって噛みやすく飲み込みやすい物性になります。

  • 口の健康を保つ

    唾液が口の中の粘膜全体を覆って保湿・保護します。唾液に含まれるカルシウムやリンなどは、歯の再石灰化を促し虫歯になりにくくします。

  • 全身の健康を保つ

    口から入ってくる細菌の増殖を防ぐ「抗菌作用を持つ」、がんの原因にもなる「活性酸素を減少させる(※)」、なども報告されています。

    (※)西岡一:唾液と活性酸素とがん予防、業界展望(医歯薬出版)

唾液の働き

コラム:ドライマウスにご注意!

唾液の分泌量が減り、さまざまな症状を引き起こすドライマウス(口腔乾燥症)をご存知でしょうか。唾液が出にくく口が渇く、口内炎や口角炎になりやすい、食べ物が飲み込みにくい、会話がしづらい、口臭がする、などの症状がみられます。

唾液の分泌量が減る原因としては、
❶ 疾患(パーキンソン病、シェーグレン症候群、エイズ、糖尿病など)
❷ 生活習慣や環境(ストレス、口呼吸、不十分な口腔ケア、乾燥した室内など)
❸ 加齢に伴う機能低下(女性の場合更年期障害以降に見られがち)
❹ 薬の副作用(抗うつ病薬、血圧降下剤、他)
などが考えられます。

気になる場合は診察を受け、疾患が原因の場合は適切な治療を受けるようにしましょう。

唾液を出やすくするために

まずは、十分な水分補給を心がけましょう。少しずつこまめに摂ることがポイントです(第6回参照)。唾液は運動や刺激によっても分泌量が増えます。話す・歌う・笑うなど日常的に口を動かすことは、もっとも手軽なトレーニングといえます。
さらに、意識的に唾液の分泌を促すためには、唾液腺マッサージや舌のトレーニングも有効です。
噛み合わせがしっかりできていれば、かための食品を食事に加えてみたり、ガムやするめを噛むのもよいでしょう。酸っぱいものや辛いもので刺激する方法もあります。
水分補給だけでなく、食事による工夫(水分を多く含むメニューを加える、など)も試してみましょう。

注意!

むせやすい方、誤嚥しやすい方は専門家に相談しましょう。

唾液腺マッサージ

❶から❸を3回ほど繰り返し、唾液が出たことを感じましょう。唾液の出にくい方は、食事の前に行うと効果的です

唾液腺マッサージ

舌のトレーニング

舌を動かすと、舌の周囲の筋肉が鍛えられ、唾液の分泌が促されます。前後、左右、ねじり、回転など行ってみましょう。

❶ 大きく口を開け、舌を出したり引っ込めたり、前後に動かす。
❷ 舌を思い切り前に突き出しそのまま左右に動かす
❸ 舌を伸ばして唇全体をなめるように舌先で円を描く
❹ 上の前歯裏に舌先を当て、舌打ちのような音(タタタ、ラララなど)を発音する
舌のトレーニング

まとめ

実はとても働き者の唾液。日頃から口の状態に関心を持ち、おいしく食べられるうるおいのある口を保っていきましょう。緊張すると口が渇くように、唾液の分泌量はストレスによっても影響されます。日々ゆったりした気持ちで過ごせるよう、心身両面からのケアをお忘れなく。
第9回は、「噛む力」に応じた食事のたのしみ方を考えます。

参考文献

*「口腔機能向上マニュアル」分担研究班:口腔機能向上マニュアル~高齢者が一生おいしく、楽しく、安全な食生活を営むために~(改訂版),平成21年
*公益社団法人8020推進財団:「唾液」の神秘と園パワー ホントはすごい!だ液のチカラ!
*西岡一:唾液と活性酸素とがん予防、業界展望(医歯薬出版)