知っておきたい高齢期の口腔ケア

第1回では、オーラルフレイル予防の大切さを解説しました。今回は、口のトラブルが健康状態に及ぼす影響と、飲み込みやすさにも考慮した食事についてみていきましょう。
よく噛むことが体に良いと言われている理由には、次のようなことがあげられます。
しかし、年とともに体の機能や筋力が衰えてきたり、口の機能を保つためのケアが不十分だったりすると、何でも食べていた口にもさまざまな変化が生じてきます。
参考:
口腔ケアについて(日本訪問歯科協会)
噛(か)むことの大切さを見直そう ~野菜の効用と食べるタイミング~(農畜産業振興機構)
一人何役?唾液の働き
痛みや傷がないと、トラブルと気づかずに過ごしていることが少なくありません。口の状態の変化はトラブルの早期発見につながるので、食事場面で以前と比べて変わったことがないか、チェックしてみましょう。
噛む力が弱い
要因
影響
噛み合わせが悪い
要因
影響
舌の動きが悪い
要因
影響
口が乾く(ドライマウス)、
舌が痛い
要因
影響
食べかすや汚れがある
要因
影響
このような口のトラブルを放っておくと、安全においしく食事を楽しむことが難しくなってきます。トラブルの芽を早く見つけ、正しい口腔ケアで健康な「食べる口」を保ちましょう。 特に、虫歯とともに「噛む力」を生み出す歯を失う原因となっている歯周病は、口の中だけでなく血管を通して歯周病菌が体内に入り込み、炎症を引き起こす疾患の原因になるとも言われています。
参考:
日本歯周病学会(編)「歯周病と全身の健康 JSP Evidence Report on Periodontal Disease and Systemic Health 2015」2016,医歯薬出版
歯周病検診マニュアル2023 厚生労働省
口のトラブルをそのままにしておくと、かたいものが食べづらくなり、食べる量が減って(小食)エネルギー不足になったり、食べるものがやわらかいものに偏って(偏食)栄養バランスが崩れたりします。さらに、食べ物をしっかり噛めないために、飲み込みにくくなって誤嚥しやすくなったり、食べることに疲れて食欲や体⼒が低下したりすることもあります。口や顎を動かさなくなるということは、脳への刺激が減り、長期的には認知機能への影響があることも知られています。かたいものが食べられないということは、⽇常⽣活の質に⽀障を来す低栄養、サルコペニア、フレイルの引き⾦にもなるのです。
・誤嚥(ごえん):
食べ物や⾃分の唾液が、食道ではなく誤って気管に⼊ること
・サルコペニア:
加齢による筋肉量の減少および筋力の低下
・フレイル:
加齢による運動機能や認知機能の低下。早期の適切な介護や支援によって生活機能の維持・向上も可能
健康な生活を送るためには日々口の中を観察し、トラブルの早期発見・早期治療に努めましょう。バランスのよい食事を心がけ、口の動きをよくするために口を潤しておくことも大切です。十分な水分を摂る、口専用の保湿剤で潤す、そして何よりも「食べる・話す」ことで、唾液の分泌を促しましょう。
⇒ 唾液の働きについては、こちら(一人何役?唾液の働き)もご覧ください。
コラム:
誤嚥(ごえん)性肺炎発症のリスクを口腔ケアで減らす
高齢者の緊急入院や死亡原因で上位を占める誤嚥性肺炎は、食べ物や自分の唾液が食道ではなく誤って気管に入り込み、付着した細菌によって引き起こされる肺炎です。
口の中で細菌が付着したものが肺に運ばれることで起きる炎症なので、口の中を清潔にして飲食物や唾液に付着する細菌を減らすことで、誤嚥性肺炎の発症リスクを下げられることが報告されています。
加えて、誤嚥したものを吐き出せる力(喀出力:かくしゅつりょく)や免疫力を備えていることも肺炎発症の予防につながります。それは、必要なエネルギーと栄養素のバランスを満たした食事を食べられる口を保つことから始まります。毎日の口腔ケアが大切であることがわかりますね。
参考:米山武義、ほか:口腔ケアと誤嚥性肺炎予防.老年歯科医学 第16巻1号 2001
.噛むことは認知症予防になる?
正解はYES!
認知機能の低下する主な要因として
などが知られています。
痛みや歯の喪失があるとしっかりと噛めなくなり、噛む力も回数も低下します。噛むことによる脳への刺激が減ることは、血流量が減り脳の老化にもつながります。
義歯であってもしっかり噛むことができれば、脳への血流量が増え脳の活性化を助けるので、認知機能にも影響を与えることがあります。唾液の分泌が促進され口を動かしやすくなり、食事や会話、表情にも良い影響があり、一石二鳥!
参考:
令和4年度 厚生労働省科学研究費「成人期における口腔の健康と全身の健康の関係性の解明のための研究」
口にトラブルを抱えていると、つい食べやすいものを選んで食事の幅が狭まりがちですが、食べたいものを食べられるようにする工夫で、豊かな食生活を諦めないようにしたいですね。 とはいえ毎日毎食となると、調理の負担はできるだけ少なくしたいもの。手作りだけにこだわらず、やわらかく調理された市販品もうまく取り入れて、必要なエネルギーや栄養素をバランスよく摂り、みんなで楽しいお食事タイムを。
噛むことが難しくなると、たんぱく質やビタミンを多く含む、肉・魚・野菜などを「食べにくい」からと避けていませんか。食べにくいものを避けるのではなく「おいしく食べやすく安全に」という視点で、食事を考えてみましょう。食材やメニューが広がると、栄養の偏りを防ぐことにもつながります。
よく噛んだ食べ物は、飲み込みやすい食べ物でもあります。噛み切りすりつぶすために歯や舌を動かし、飲み込みに適した状態にして食べるための工夫を紹介します。

⇒ 噛む力が低下してきたときの調理の工夫については、こちら(少しの工夫で噛みやすく)もご覧ください。
適切な口腔ケアを続けていても、一人ひとりの噛む力、飲み込む力は異なりますし、年とともに体力や機能の低下も生じます。それらの状態に合わせ、「容易にかめる」「歯ぐきでつぶせる」「舌でつぶせる」「かまなくてよい」と表示されている食品があるのをご存知ですか?
これらはユニバーサルデザインフード(UDF)といって、日常の食事から介護食まで幅広くお使いいただける、食べやすさに配慮した食品です(日本介護食品協議会制定)。
調理ができない時や、歯の痛みや治療で一時的に噛むことが難しい時にも活用してはいかがでしょうか。
容易にかめる
かむ力の目安
かたいものや大きいものはやや食べづらい
飲み込む力の目安
普通に飲み込める
かたさの目安
▼ご飯の調理例
ごはん〜やわらかごはん

歯ぐきでつぶせる
かむ力の目安
かたいものや大きいものは食べづらい
飲み込む力の目安
ものによっては飲み込みづらいことがある
かたさの目安
▼ご飯の調理例
やわらかごはん〜全がゆ

舌でつぶせる
かむ力の目安
細かくてやわらかければ食べられる
飲み込む力の目安
水やお茶が飲み込みづらいことがある
かたさの目安
▼ご飯の調理例
全がゆ

かまなくてよい
かむ力の目安
固形物は小さくても食べづらい
飲み込む力の目安
水やお茶が飲み込みづらい
かたさの目安
▼ご飯の調理例
ペーストがゆ

.噛んだり飲み込んだりする力のレベルに合わせた UDF。
売っているのはごはん(おかゆ)だけ?
正解はNO!
おかゆはもちろん、様々なおかずやスープなどが販売されています。食欲を引き出す味や見た目にこだわり栄養バランスにも配慮していますので、試食してみると良いでしょう。また、普段目にしている食品の中にもUDFのマークがついたものがあります。
しっかり栄養を摂り、必要なケアや治療で「食べられる口」を保ち、食べたいものを諦めない食生活を目指しましょう。
戸原先生より「栄養不足から高齢者を守る口のケア」
口のトラブルは食べることに支障をきたし、栄養不足は全身に影響を及ぼします。高齢者は特に、栄養不足による筋力、抵抗力の低下から重大なトラブルで緊急入院につながることも多いため、しっかり栄養を摂るための入り口である歯と口の働きを守りましょう。
次回は、実際の口腔ケアのポイントや安全に食べるための環境について、紹介します。